弘南鉄道には、弘前市(弘前駅)と大鰐町(大鰐駅)までのルートと、弘前市(中央弘前駅)から黒石市(黒石駅)までの2つのルートがあります。
まず、大鰐町への鉄道に乗車することにしました。
「大鰐」の地名は、はるか昔、大きな阿弥陀如来像があることから「大阿弥陀」と呼ばれていましたが、大阿弥・大阿尓(おおあみ:大きな阿弥陀仏)が大阿子(おおあね)となり、室町時代を経て、大安国寺(おおあに)、大姉(アネ=アイヌ語で森林がある谷間)と変化し、大浦為信の津軽統一以降は、「大鰐」(大きな山椒魚(サンショウウオ)=鰐が棲んでいた伝説がある)と記されるようになったと伝えられていると、町の公式ホームページに掲載してあります。
大鰐町は昔からの湯の街で、津軽の温泉の一つで、農家の人達が一年の農作業の疲れをとるために、湯治によく利用した温泉街でもあります。その他、ここには有名な「大鰐スキー場」があります。阿闍羅(あじゃら)山という山があり、国内でも有名な国際スキー場コースがあり、今までも国体などが開催されてきた所です。「阿闍羅」という名の由来には諸説があり、阿遮羅(あしゃら=不動明王)、阿婆羅(あばら=五輪塔)、阿闍梨(あじゃり=修行を積んだ僧)、さらに聖徳太子が宮殿内に大日如来・不動尊・聖観音の三尊を祀り、阿闍羅不動と称したことなどから、そう呼ばれるようになったとされています。
さて、出発地の弘前市側の中央弘前駅前には、大きく「ラーメン」と書かれた提灯が掲げてありました。大衆食堂です。とてもレトロな店内で、時間があれば一度は食べてみたいものです。
この電車は、およそ30分間隔で走っており、始点から終点までの所要時間もおよそ30分です。改札口を通って電車に乗り、まず目にしたのが、電車のつり革に書かれてある「東急百貨店」の文字です。この車両は、以前は東京の東武東上線を走っていたのです。昭和の時代、東武東上線でこの電車で通勤した人が、この車両に乗ったらとても懐かしく思うことでしょう。
電車は静かに駅を出発しました。進行方向に対して右側に見える川は土淵川。対岸は、川端町といって昔の割烹や料亭が並んでいるところです。途中には、津軽藩主4代の信政の時代に完成した五重塔が少し見えます。
電車に乗っていて驚いたことは、駅名のほとんどが高校や大学の名前が使われているということです。通勤列車ではなく、通学列車というイメージが湧いてきました。そして、「津軽」といえば「りんご」というように、電車はりんご園の中を走り抜けていくという感じです。また、乗客の話を聞いていると、大鰐スキー場に行く人、温泉に行く人、弘前市に買い物に行って帰る人など様々です。
約30分間、窓からの景色を眺めていると、あっという間に終点の大鰐駅に到着しました。大鰐駅近くでは、昔懐かしいラッセル車もあり、豪雪地帯の冬の名物列車にもなっています。
大鰐駅を出ると、駅前には大きな「ワニ」のマスコットが立っていました。とてもユニークな企画です。子ども達が喜びそうです。街をぶらり歩いていくと、「かどや食堂」という看板が見えてきました。ここの名物は、大鰐もやしを使った「もやしラーメン」と「もやし炒め定食」だそうです。
実は大鰐町は、温泉熱を利用したもやし作りが名物なのです。町を歩いていると「もやし屋」という古い建物を見つけました。もやしには長い伝統があり、津軽藩三代藩主信義公が、大鰐で湯治した時には必ず献上されていたというのです。寛文4年(1664年)の史料によると、春の七草として大鰐菜園所より大豆もやしとして藩に献上するようになっていたそうで、冬場の野菜の採れない時期は、温泉熱で約一週間で収穫される大鰐もやしは大変貴重な野菜となっていたそうです。歯切れが良く、味に癖がないのが特徴で、名物「温泉もやし」として買い求めていく旅人も多いそうです。
町の真ん中には、湯魂石遺跡碑があります。その碑の下にはワニの形の石碑があり、その口から温泉が沸いていました。温泉街を歩くのはとても気持ちがいいものです。昔からの古い旅館の看板も見えました。「仙遊館」です。その看板には、今では使われなくなった、山二という屋号がついていました。今回は雪道でしたが、季候の良い夏場は、夕食を済ませてから街中の寿司屋で一杯やりながら千鳥足で歩いてみるのも楽しい街です。
街中の通りを歩いてふと上を見上げると、通りの名称も、なかなか粋な名前がついていました。「くらだて大湯通り」・「ゆけむり通り」・「大円寺通り」など、温泉街ならではのわかりやすい名前です。マンホールの蓋にも、ワニのマークが入っていて、とてもおしゃれな雰囲気があり、湯上がりに下駄など履いて歩く楽しみがあります。
「大円寺通り」には、現在の国道7号線(旧羽州街道・・・津軽の殿様が参勤交代の時に通った街道)があり、大きなお寺「大円寺」があります。境内には仁王様が左右に立っていて、威厳を保っています。小さな子ども達はびっくりするかもしれません。
その向かい側には、「朝日屋 日景食堂」があります。中華そばが非常においしく、煮干しを使ったシンプルな味です。
駅方面にぶらりと歩いていると、途中に「まみや煎餅店」があります。職人気質のご主人が、真剣に津軽煎餅を一枚一枚丁寧に、奥さんと一緒になって焼いています。食べてみると、ほかの煎餅とは違う、分厚い煎餅の歯ごたえがかえってきます。ごま風味とピーナツ風味、それにバターピーナツ風味の3種類があります。駅付近には、「鰐com」という温泉と観光土産屋が一緒になった複合施設がありました。
大鰐町のど真ん中を流れる平川にいた白鳥と真ガン
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