埼玉の文京学院大学人間学部社会共生学科3回生の中垣美由紀さんは、地元の人達の山と向き合った共生の生活を通した植林事業を学ぶため、6月から3ヶ月間の日程で訪れている。白神山地を守る会へのインターンシップ生として、作業をはじめて2ヶ月近く経った。白神山地の里、一ツ森地区にある廃校の教員宿舎に寝泊まりし、自炊して共に作業を繰り返す日々である。
文京学院大学の人間学部社会共生学科では、「共生」は、これからの社会を考えるときに欠かせないキーワードだとしている。共生社会学科は、
@一人ひとりが属するコミュニティでの共生
A異なる文化や多様な価値観を持つ人々との共生
B自然環境と人間との共生
と3つのカテゴリーに分けて、共生の理念のもとに、多様で複雑な社会のさまざまな問題に取り組める人材の育成を目指している。特に、人間に対する理解や豊かな社会的感性を育むことに力を入れている。
中垣さんは、地元の人達とのブナの森の復元・再生活動を通して、白神山地の自然保護に取り組む姿に触れ、「自然との共生の姿に感動した」と言っている。
都会っ子でいた中垣さんは、経験したことのない山仕事に、最初は慣れない日々だった。食べ物についても、山菜を採っては、その日の食卓にのぼる山菜料理に、「山棲み人の豊かな食の伝統文化を感じた」と言う。また、一緒に作業をするうちに、「地元のコミュニティーのあり方に感心した」とも言っていた。
地元の大人達の、豊かで笑いが絶えない野良仕事の実態などは、都会にはない、現代人が忘れかけている豊かな会話であったことだろう。「一ツ森地区に住む人たちの価値観やこだわりは、経済一辺倒の価値観で物事を見ているような社会感覚では理解できない」とも言っていた。「買い物をするより、近所のお母さん達からもらった山菜や漬け物、おかずが多くて買い物に何日も行っていないんです」と目尻を細めていたのがとても印象的でした。また、山仕事の知恵をたくさん学んだようで、「山仕事をして、昼ごはんの後にする昼寝が癖になった」とも語っていた。また、「雨の日に合羽を着た時、長靴に水が入らない方法も教わった」と、誇らしげに語っている中垣さんは、はじめて一ツ森地区に来た時の、都会っ子のイメージとはかなり違って、「地元のかわいい農家の若者」という印象である。
中垣さんは、自分自身の生き方や将来の行動について、今までの自分と違う考え方、思考をしていると気づき、自分を見つめ直しているようだ。良い体験を日々積み上げているように思う。
「白神山地の里の植林体験のインターンシップ事業」は、短い学生生活において良いきっかけになっているようで、受け入れた私共も一安心している。
この事業は、3ヶ月の長期滞在型である。白神山地を守る会も、地元一ツ森地区の作業を手伝っている婦人会も、若い学生が入ってきてとても有意義なものになっている。中垣さんは、「植林事業のすべてを体験することにより、一度伐採された広葉樹の森を再生・復元することの難しさを身をもって体験した」と言っていた。
また中垣さんは、「就業意識を高めるきっかけにもなった」と語っている。地元の人達の温かみを通して、集落の人々の相互扶助の精神を学ぶコミュニティーのあり方を検証する中で、自分が生活していた埼玉のふじみ野市での日々との違いを語ってくれた。
中垣さんは、白神岳、核心部分のクマゲラの森、天狗岳など、白神山地を代表するブナ林の山を登ったりゆっくり散策したりした。ブナの植生調査もした。ブナの苗床では、苗木を一本一本立ち上げ、移動もした。そして、一本一本植林地に運び、植えることもした。山仕事の後の道具の後かたづけ、カマの刃を磨くこともした。手入れの大切さ、管理の仕方、作業時間の工夫も学んだ。
クマゲラの森では、弘前大学の植生調査の学生と会い、調査の大変さも経験した。白神山地のブナ林の特長ある地を訪れ、興味を持った。同じ白神山地でも、内陸部の津軽沢林道や西目屋村のブナ林と、クマゲラの森のような核心部分、日本海側の北西の偏東風が吹く白神岳のある地域のブナの木の成長、コケの付き方、枝振り、低木など、1つ1つ興味を持っていった。
この間、白神山地を守る会が進めている国際ボランティア(NICE)のメンバーが白神山地を訪れた。中垣さんは、世界から参加したメンバーと一緒に森林体験を経験した。世界の学生や若者との寝食を共にした交流を通して、世界的視野での共通の課題や経験や、同じ女性としての悩みも話し合ったようで、とても楽しいいい思い出だと語ってくれました。楽しい財産となったと思う。
一般的にインターンシップと言えば、企業への就職活動の前段階として企業の社会貢献の一環として実施しているというイメージがあるが、私共は、
@学生や若者が植林活動を通して、白神の自然と人間の共生にあり方を実践的に理解する
A学生や若者の田舎暮らしを通して、都会の喧騒(けんそう)とは無縁な誰人も思い描く日本の田舎風景を通した「生きる力」を見つけてもらいたい
Bインターシップに参加をして、若者と地元の若者の「交流の場」を通し協働の意識で、自分たちの地域の自然を守り、自分たちの地域を変えていこうという意識の目覚めが少しでも広がれば良い
と考えている。
このインターンシップは、8月の半ばまで続いている。しかし、この2ヶ月近くの中垣美由紀さんの頑張りは素晴らしく、途中の経過を伝えたいと思い、こここに書くことにした。
2006年7月26日
白神山地を守る会
代表理事 永井 雄人
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